
ポイント3行
- 10年間ずっと使ってきたBitwardenから、私がProton Passへ金庫ごと預け替えた理由を整理しました
- 2026年に起きた価格改定もふまえ、料金・プライバシー・使い勝手の3点で、いいところも悪いところも正直に比べます
- どんな人にどちらが向いているか、つまずかない移行のやり方まで、これ一本で分かるようにまとめました
はじめに──金庫の鍵を預け替えるということ
私にとってパスワードマネージャーは、家でいちばん大事な金庫のようなものです。ネット銀行も、SNSも、仕事のアカウントも、ぜんぶこの金庫の中の鍵で守られています。だからこそ、その金庫をどこの会社に預けるかは、引っ越し先を選ぶくらい慎重に決めたい。気軽に変えるものではありません。
過去10年、私の金庫はずっとBitwardenでした。安くて、頑丈で、文句のつけようがない相棒。それでも私は、Proton Passという新しい守護者に、金庫ごと預け替えることにしました。
最初に断っておくと、これは「Bitwardenがダメになったから逃げた」という話ではありません。今でもBitwardenは素晴らしいサービスです。ほぼ完璧な相棒を手放してまで、私が別の選択をした理由を、できるだけフェアにお話しします。
第1章 Bitwarden──10年揺るがなかった王者
まず、Bitwardenがどれだけ強いサービスなのかを、ちゃんと書いておきたいと思います。乗り換えた今でも、私はこのソフトを尊敬しています。
中身が全部見える安心感
ひとつ目の強みは、設計図がまるごと公開されていることです。Bitwardenはソースコードがすべて公開されていて、世界中の技術者が「本当に安全な作りになっているか」を自分の目で確かめられます。さらにCure53をはじめとした外部の専門会社による監査も毎年受けていて、第三者のお墨付きがあります。
たとえるなら、金庫メーカーが「うちの金庫、内部構造を全部公開するので好きに調べてください」と言っているようなものです。隠しごとがないという姿勢そのものが、安心につながります。自分のサーバーに置いて自前で運用することもできるので、「他人任せにしたくない」という上級者にも理想的です。
長く語り草だった圧倒的な安さ
ふたつ目は、ずっと伝説のように語られてきた安さです。以前のBitwardenの個人向け有料プランは、年間およそ10ドル。これだけで二段階認証コードの保管も、暗号化ファイルの保存も、家族への緊急アクセスも使えました。しかも無料プランがとても優秀で、パスワードの保存数も使える端末の数も無制限。多くの人は、お金を払わなくても十分に使えてしまいます。
飾らない、実用一点ばりの作り
三つ目は、見た目より中身という姿勢です。画面は地味ですが、細かい設定がよく効き、ちょっと変わった作りのログイン画面でも自動入力がきちんと決まります。派手さはいらない、確実に動いてほしい、という人にはぴったりでした。
2026年、王者が値上げした
ところが2026年1月、Bitwardenはおよそ10年ぶりに有料プランの価格を改定しました。個人向けの有料プランは年間19.80ドル、月にすると1.65ドルへ。ざっくり2倍の値上げです。
もちろん、ただ高くなっただけではありません。同じタイミングで、暗号化ファイルの保存容量は1ギガから5ギガへ5倍に増え、登録できるセキュリティキーの数も増え、弱いパスワードを見つけて教えてくれる機能なども加わりました。値段が上がったぶん、中身もしっかり濃くなっています。それでも、私が長年よりどころにしていた「年10ドルの圧倒的コスパ」という看板が下りたことは事実で、これが私に「他のサービスももう一度ちゃんと見比べてみよう」と思わせたきっかけになりました。
第2章 Proton Passという対抗馬
Proton Passは、プライバシー保護で世界的に知られるスイスの会社Protonが作るパスワードマネージャーです。同じ会社が暗号化メールやVPNも手がけていて、「ユーザーのデータを売らない、のぞき見しない」という姿勢を、会社の背骨にしています。
料金の考え方
Proton Pass単体の有料プランは、年払いにすると月2.99ドル、年間でおよそ35.88ドルです。正直に言うと、値上げ後のBitwardenよりも少し高い。ここはごまかさずに書いておきます。
ただしProtonには、メールもカレンダーもVPNもクラウドストレージも全部ひとまとめにした上位プランがあり、こちらは年払いで月9.99ドル。バラバラに契約すると高くつくサービスを1社にまとめられるので、複数のサービスを使いたい人にはむしろお得になります。私のように「どうせProtonのメールもVPNも使う」という人間には、この合算がじわじわ効いてきました。
無料プランも実用的です。ログインの数も使える端末の数も無制限。あとで説明するメールアドレス隠しが10個まで、二段階認証コードも3件まで無料で保存できます。まず無料で触って、肌に合うか確かめてから本契約できるのはありがたいところです。
第3章 暗号化──ここはきちんと正しておきたい
両者を比べるとき、いちばん誤解されやすいのが暗号化のところです。ネット上には不正確な説明も多いので、ここは丁寧に書きます。
パスワードマネージャーは、いわば自分専用の金庫です。BitwardenもProton Passも、保管庫の中身であるユーザー名・パスワード・サイトのアドレス・メモを、すべて自分の端末の中で鍵をかけてから会社のサーバーに預けます。これを「ゼロ知識」と呼びます。会社のサーバーには鍵のかかった箱だけが届くので、運営会社の社員であっても中身は読めません。これは両方に共通する、いちばん大事な土台です。
よくある誤解を解いておく
ここで、多くの紹介記事が「Bitwardenはサイトのアドレスを暗号化せずそのまま持っている」と書いています。でもこれは正確ではありません。Bitwardenの公式説明では、サイトのアドレスも、項目の名前も、メモも、二段階認証の元になる秘密の値も、すべて暗号化の対象です。サーバー側に素のまま置かれるのは、ログインに使うメールアドレスや、最後に更新した日時といった運用上のデータだけ。保管庫の中身そのものは、きちんと鍵がかかっています。
この誤解は、過去に大きな情報流出を起こした別のサービスが、本当にサイトのアドレスを暗号化せず保存していた件と取り違えられているのだと思います。Bitwardenの名誉のために、ここははっきり書いておきたかった点です。
では、Proton Passとの本当の違いは
では、暗号化の面でProton Passはどこが違うのか。Proton Passは「あなたがそもそもどんなサービスに登録しているか」というメタ情報まで隠す設計を、より強く前面に打ち出しています。ユーザー名もサイトのアドレスもまとめて暗号化し、Proton自身でさえ「この人はどのサイトのアカウントを持っているのか」を知ることができない、という作りです。
たとえるなら、Bitwardenは「箱の中身は鍵をかけて誰にも見せない金庫」。Proton Passはそれに加えて「そもそも誰がどんな箱を預けているかという台帳すら持たない金庫」というイメージです。どちらも中身は安全ですが、Protonは「預かっている事実そのものを最小限にする」という思想を徹底しています。
技術的にも、両者は中身が違います。Bitwardenは保管庫をAES-256という強力な方式で暗号化し、鍵を作る計算を60万回くり返して総当たり攻撃に強くしています。希望すればArgon2idというさらに新しい方式も選べます。Proton PassはAES-256のGCMという方式でひとつひとつの項目を暗号化し、本人確認には強化版のSRPという仕組みを使って通信の盗み見にも備えています。どちらも現代の最高水準で、ここで優劣をつける必要はありません。
スイスという「住所」の意味
会社がどの国にあるかは、プライバシーにとって意外なほど重要です。Bitwardenはアメリカのカリフォルニア州に拠点を置く会社です。アメリカには、自国の企業に対して、海外に保管したデータでも当局へ提出するよう求められる法律があります。
一方のProtonはスイスにあります。スイスは情報共有の国際的な枠組みに加わっておらず、法律によって外国の当局へ直接データを渡すことが禁じられています。世界でもとくに厳しいプライバシー法を持つ国です。同じ「鍵のかかった金庫」でも、その金庫が建っている国の法律が違えば、いざというときの守られ方も変わってきます。私にとって、この「住所の違い」は思っていたより大きな決め手になりました。
第4章 早見表でひと目で比較
ここまでの話を、表にまとめておきます。数字は2026年時点のものです。
| 項目 | Bitwarden | Proton Pass |
|---|---|---|
| 運営の拠点 | アメリカ・カリフォルニア州 | スイス・ジュネーブ |
| 個人有料プラン | 年19.80ドル(2026年1月に約10ドルから値上げ) | 年払いで月2.99ドル(年およそ35.88ドル) |
| 無料プラン | パスワード無制限・端末無制限・パスキー対応 | ログイン無制限・端末無制限・メール隠し10個 |
| 保管庫の暗号化 | AES-256+HMAC、ゼロ知識 | AES-256(GCM)、ゼロ知識+メタ情報も暗号化 |
| 鍵の作り方 | PBKDF2を60万回、Argon2idも選択可 | 強化版SRP+bcrypt |
| メールアドレス隠し | なし | hide-my-emailを標準搭載 |
| 二段階認証コード | 有料で保管庫に統合 | 無料は3件まで、有料で無制限 |
| 新しい端末の追加 | マスターパスワードなどで解除 | QRコードを読むだけ |
| 漏えい・乗っ取り監視 | 保管庫ヘルス(有料で強化) | Pass MonitorとProton Sentinel |
| 公開ソース | 全面公開・自分のサーバーに設置可 | 公開・外部監査済み |
こうして並べると、Bitwardenは「安さ・自由度・自分で管理できる強さ」、Proton Passは「プライバシーの徹底・使い勝手・付いてくる機能の幅」という色分けがはっきりします。
第5章 私が乗り換えを決めた3つの理由
1. メールアドレス隠しが最初から付いている
Proton Passには「hide-my-email」というメールアドレス隠しの機能が標準で付いています。これは、サービスに登録するたびに、自分の本当のアドレスではなく使い捨ての転送用アドレスを発行してくれる機能です。
たとえるなら、お店ごとに違う使い捨ての電話番号を渡しておくようなもの。どの番号にかかってきても自分の本物の電話に転送されますが、もしどこかのお店から番号が漏れても、その一本を切ってしまえば被害は広がりません。どのサービスから情報が漏れたのかも一目で分かります。パスワード管理とこの仕組みが一体になっているのが、私には本当に便利でした。
2. 毎日の操作が軽い
セキュリティは、結局のところ毎日続けられるかどうかが勝負です。どんなに頑丈でも、面倒だと人はつい手を抜いてしまう。
Proton Passで気に入ったのが、新しい端末を追加するときのQRコードログインです。すでにログイン済みのスマホで画面に出したQRコードを、新しい端末で読み取るだけ。長いマスターパスワードを一字一句打ち込む必要がありません。コンサート会場でチケットのQRをかざして入場するような手軽さです。この小さな快適さが積み重なると、セキュリティへの面倒くささが減って、結果的にきちんと運用できるようになります。
3. 「預かる事実すら最小限」という思想と、スイスという安心
3つ目は第3章で書いたとおりです。中身を暗号化するだけでなく、「誰がどのサービスを使っているか」というメタ情報まで隠す設計。そして、外国の当局へデータを渡せないスイスという住所。さらにProton Passの有料プランには、漏えいを監視するPass Monitorと、AIと人の担当者が組み合わさってアカウントの乗っ取りを見張るProton Sentinelという仕組みも付いてきます。たとえ正しいパスワードを盗まれても、いつもと違う怪しいログインをブロックしてくれる仕組みです。この「もう一段の守り」が、私の優先順位にぴたりとはまりました。
第6章 実際の移行手順──つまずかないために
乗り換えは思ったより簡単でした。手順を残しておきます。
- Bitwardenからデータを書き出す。Bitwardenの拡張機能かWeb版で「設定」から「ツール」を開き、「保管庫のエクスポート」を選びます。形式は必ず「暗号化なしの.json」にしてください。.csv形式だとカードや本人情報が抜け落ちますし、暗号化された.jsonはProton Pass側で読み込めません。マスターパスワードで本人確認をして書き出します。
- Proton Passに取り込む。Proton Passの拡張機能を開き、メニューから「設定」の「インポート」タブへ。提供元の一覧から「Bitwarden」を選び、さきほどの.jsonファイルを読み込ませます。
- 引き継ぎ結果を確認する。ログイン情報とメモはそのまま移ります。二段階認証コードは移る場合もありますが確実ではないので、よく使うサービスは実際にコードが出るか試してください。パスキーはそのままでは移らないため、各サービスで登録し直します。添付ファイルも手動で入れ直す形になります。
- 書き出したファイルを必ず消す。手順1で作った「暗号化なしの.json」は、中身が丸見えのファイルです。移行が終わったら、メールなどで送らず、その場ですぐに完全削除してください。ここを忘れると、せっかくの引っ越しが台無しになります。
第7章 どちらを選ぶべきか
最後に、人によっておすすめが分かれる点を整理します。
Bitwardenが向いている人
- とにかく費用を抑えたい人。値上げ後でもProton Passより安く、無料プランだけでも十分に戦えます
- 自分のサーバーに置いて自分で管理したい、設定を細かくいじりたい上級者
- 変わった作りのサイトでも確実に自動入力を効かせたい人
Proton Passが向いている人
- 本人確認のメールアドレスごと隠して、登録の足あとを残したくない人
- スイスという住所と、メタ情報まで隠す設計に価値を感じるプライバシー重視の人
- メールやVPNもProtonでまとめたい人。合算するとむしろお得になります
- 毎日の操作の軽さや見た目の心地よさを大事にしたい人
まとめ4行
- Bitwardenは2026年に値上げしたものの、安さ・自由度・自分で管理できる強さでは今も一級品で、乗り換えた今でも私は尊敬しています
- 「Bitwardenはサイトのアドレスを暗号化していない」というのはよくある誤解で、実際は両方とも中身はしっかり守られています
- Proton Passの決め手は、メールアドレス隠し・QRログインの軽さ・メタ情報まで隠す設計・スイスという住所という、守りと使い勝手の合わせ技でした
- 私が乗り換えたのはBitwardenの欠点のせいではなく、自分が何を大事にしたいかが変わり、それに合う相棒が現れたから──ただそれだけです